アンデスネコの尻尾はなぜ「もふもふ」しているの?

初めて写真でアンデスネコを見たとき、つぶらな瞳と、身体の割に太くてもふもふした尻尾の絶妙なバランスに魅了された。

出典:Wikimedia Commons(Lupo)Copyrighted free use

野生動物を見ていると、よくこう思う。これは私が野生動物が好きな理由のひとつでもある。

ー 彼らは、自分を可愛く見せようとしていない。
ー 生きるために、必死に適応してきた結果のはずだ。
ー それなのに、ちょっと悔しくなるくらい「可愛い」姿をしているのは、なぜ?

(共感してくれる人がいたら嬉しい。)


話を戻すと、アンデスネコたちは、もちろんファッション感覚で尻尾をもふもふさせているわけではない。

人間からするとあまりにも可愛い「もふもふ尻尾」だが、彼らにとっては過酷なアンデス山脈で生き延びるための「生存装備」なのだ。

今日はその理由を、きちんと紐解いていきたい。

目次

アンデスネコの『もふもふ尻尾』は高地の生存装備

出典:Wikimedia Commons(Jim Sanderson)CC BY-SA 3.0

アンデスネコ(Leopardus jacobita)の尻尾が太くてもふもふな理由は、大きく3つに整理できる。

  1. 岩だらけの急斜面でバランスを取るため
  2. 寒さと風の強い高地で体温を守るため
  3. 目立つ輪状の模様も含めて、意思表示や個体識別に役立つ可能性

特に「岩場での狩り」と「高地の寒さ」が、この尻尾を過剰に育てたと言えるだろう。 

理由①:岩場で落ちないためのバランス装置

アンデスネコが暮らすのは、南米アンデス山脈の高地。

植生は乏しく、風は強く、夜は冷え込み、地面は岩だらけ。

獲物は、岩場を跳ね回るビスカチャ(アンデスの岩場にいるウサギっぽい齧歯類)が中心とされている。 

出典:Wikimedia Commons(Agustín Zarco)CC BY 4.0

ここで必要なのは、速さよりも「岩場から落ちない技術」だ。

尻尾は、飾りではなく、体の動きを制御するための「重り」であり「舵」。

重心を瞬時に戻せる太い尻尾は、急斜面や岩の隙間を移動しながら狩りをする時に転落リスクを下げる合理的な進化と言えるだろう。

同じように岩場で暮らすネコ科は他にもいる。たとえばヒョウピューマも、山や岩場を使って生きている。

ただ、アンデスネコが暮らす場所は「岩」「崖」「高地」が同時に重なる。足場は不安定で、落ちたら終わりで、寒くて、獲物も限られる。

そんなミスの許されない条件が重なっているからこそ、ただ長いだけの尻尾ではなく、異様な存在感を持つほど発達したのだろう。

※同じように「岩」「崖」「高地」で暮らすネコ科として有名なのがユキヒョウだ。ユキヒョウの尻尾については後ほど触れる。

理由②:高地の寒さから体温を守る「保温の毛布」

高地の冷え込みは、体の小さな動物にとって致命的になりうる。

尻尾の毛が密で長いのはもちろん、太いことで保温に使える面積が増える。

実際、寒い環境で暮らす動物の中には、尻尾を体に巻き付けて熱を逃がしにくくするものもいる。アンデスネコにも、そうした仕草が見られる(可愛い)。

アンデスネコの尻尾が「長い」だけでなく、身体の割に「太い」のは、岩場でのバランス機能に加えて、寒冷地で体温を守るという現実的な要素が重なった結果なのだ。

理由③:輪っか模様で意思疎通している可能性?

アンデスネコは、IUCNレッドリストで絶滅危惧(EN)に指定される希少な存在だ。しかも人間が近づきにくい高地で暮らすため、研究は十分に進んでいない。

出典:Wikimedia Commons(RSANILOPEZ)CC BY-SA 4.0

そんな中でも、もふもふの尻尾について興味深い見方がある。

ネコ科一般に、尾の模様は「同種間の視覚的なサインになり得る」と考えられている。

アンデスネコの尻尾の輪っか模様も、岩場に溶け込むカモフラージュになるだけでなく、仲間に対して「自分の位置」や「警戒」を伝えるサインとして機能している可能性があるといった見方だ。

もしそうだとしたら、彼らの尻尾が太くてもふもふしているのは、輪っか模様のサインを相手に届けやすくするためなのかもしれない。

可能性の域を出ていないが、アンデスネコたちがつぶらな瞳をくりくりさせながら、もふもふの尻尾で何かを伝え合っている世界……想像するだけでニヤけてしまう。

ユキヒョウの尻尾と、アンデスネコの尻尾

ここで比較したいのが、同じくもふもふ尻尾の持ち主である「ユキヒョウ」だ。

野生では滅多にお目にかかれない特別感に、魅力的なビジュアル。日本の動物園でも人気で知っている人は多いと思う。

アンデスネコがオセロット属(Leopardus)であるのに対して、ユキヒョウはパンテラ属(Panthera)。分類上も離れていて、祖先も異なる系統だと考えられている。

重さで比較すると差は歴然。アンデスネコは4〜6kg、ユキヒョウは30〜50kg。少なく見ても数倍、大きいと10倍近い差がある。

さらに言うなら、アンデスネコの生息地は名前のとおり南米アンデスの高地。ユキヒョウの生息地(中央アジア〜ヒマラヤの高山帯)とは大陸自体が違う。分布が重なることはない。

そんな両者の尻尾が、どちらも異様に長く太く発達しているのだから面白い。

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全長尻尾尻尾が占める割合
アンデスネコ93〜123 cm41〜48 cm35〜46%
ユキヒョウ170〜220 cm80〜100 cm40〜53%
▶︎この表を見ると、身体の半分以上が尻尾の個体も存在することがわかるから驚きだ。

共通点を乱暴にまとめるなら、「岩」「崖」「高地」で暮らすという生存環境にあるだろう。

彼らの尻尾は、厳しすぎる環境に適応する過程で、多くのネコ科が持つ尻尾の役割をさらに押し広げていった。

つまり、急な岩場でバランスを取り、体温を守るための実務的な道具として発達していったのだろう。

こうした軌跡を前にして、動物の身体がいかに環境の影響を受けて進化してきたのか——そして、適応の可能性はどこまで続くのだろう…。と、そのダイナミックさに思いを馳せずにはいられない。

もふもふたちが暮らす世界は、過酷で脆い

アンデスネコのもふもふ尻尾は、可愛さのためじゃない。

岩場で落ちないため、寒さをしのぐため、そして(もしかしたら)仲間に何かを伝えるために、そう進化せざるを得なかった「生存装備」だ。

そして、もふもふたちの世界は、想像以上に過酷であり、脆い。

静かなアンデスの高地は、私たちの都合で簡単に壊れてしまう。

あの尻尾が可愛いだけではないことを知る人間が増えることも、彼らが野生下で一年でも一日でも長く、もふもふし続けられる力になるのではないか。

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この記事を書いた人

野生に生きる「ネコ科図鑑」管理人です。トラ・マヌルネコに偏愛

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