スンダウンピョウ図鑑|「島の森の幻影」の生態と現状、保全活動まで

  • 学名: Neofelis diardi(ネオフェリス・ディアルディ)
  • 英名: Sunda Clouded Leopard
  • 分類: ネコ科ウンピョウ属
  • 体長: 60〜110cm(頭胴長)
  • 尾長: 55〜85cm
  • 体重: オス 20〜25kg、メス 11〜15kg
  • 寿命: 野生で推定11〜15年、飼育下で最長17年

スンダウンピョウってこんな動物!

  • 雲模様の美しい被毛を持つ中型ネコ
  • 長さ5cmの長い犬歯を持つ
  • 180度回転する足首で木を頭から下りられる
  • 体長の90%に達する長い尾で樹上での驚くべきバランス感覚

この記事では「島の森の幻影」スンダウンピョウの生態から今日からできる保全活動まで徹底解説していきます。

※長くなりますので目次を見ながら興味のある内容に飛んでくださいね👍それでは、スタート!

目次

スンダウンピョウ基本情報

分類と起源

スンダウンピョウは、独自のウンピョウ属に分類されるネコ科動物です。

ウンピョウ属は現在2種のみを含む特殊なグループ。画像の上がスンダウンピョウ・下がウンピョウです。

写真:上/Sunda clouded leopard, 下/Clouded leopard
Photos by Paulo, kellinahandbasket, via Wikimedia Commons
CC BY-SA 4.0

長い間、ボルネオ島とスマトラ島のウンピョウは大陸部のウンピョウと同種と考えられていました。

しかし、2006年の遺伝子研究をきっかけに大陸部のウンピョウとは別種 Neofelis diardi として再分類され、2010年前後から独立種として広く認められるようになりました。

学名の「ディアルディ」は、19世紀のフランス人動物学者ピエール・メダール・ディアールにちなみます。

スンダウンピョウは他のネコ科動物とは系統的に異なり、約600万年前に分岐したとされます。

2つの亜種

スンダウンピョウには2つの亜種が確認されています。

現在の亜種

  • ボルネオ・スンダウンピョウ:ボルネオ島に生息
  • スマトラ・スンダウンピョウ:スマトラ島に生息

数十万年前に分離したこの2つの亜種は、遺伝的に異なるだけでなく、模様や体の大きさにも違いがあります。

ボルネオ亜種はやや大きめの雲模様を持ち、一方スマトラ亜種はより小さく密集した雲模様が特徴です。

この違いは、それぞれの島の森林環境に適応した結果と考えられています。

分布と生息環境

生息地域

スンダウンピョウの生息地は、スンダ列島のうち主にボルネオ島とスマトラ島に限られています。

主な生息地域

  • インドネシア(ボルネオ島カリマンタン地方、スマトラ島)
  • マレーシア(ボルネオ島のサバ州とサラワク州)
  • ブルネイ(ボルネオ島北部)

スンダウンピョウは主に熱帯雨林の樹上環境を好みます。

ボルネオでは主に1,500m以下の低地〜丘陵の森林、スマトラではより標高の高い山地林でも見られます。

住環境の条件

スンダウンピョウは以下のような環境を必要としています。

  • 原生の熱帯雨林(特に低地の原生林)
  • 連続した森林キャノピー(樹上移動に必要)
  • 多様な獲物の生息地(サルや樹上性哺乳類)
  • 人間活動の少ない静かな環境
  • 水源へのアクセス

特に重要なのは連続した森林キャノピーの存在です。

スンダウンピョウは樹上生活に高度に適応しており、木々の間を移動するために途切れないキャノピーが必要です。

また、原生林や二次林など様々な森林を利用しますが、特に原生の低地熱帯雨林で最も多く見られます。

個体数と保全状況

画像:Illustration of Sumatran/Bornean Clouded Leopard, after Jardine (1834).
出典:Wikimedia Commons「PI9 rimau dahan (jardine)」

厳しい現状

現在のスンダウンピョウの推定成熟個体数は、世界全体で約4,500頭(IUCN 2015年)。

これは非常に少ない数字で、絶滅の危機に瀕していることを示しています。

保全状況の歴史

スクロールできます
年代主な出来事
1980年代まで大陸ウンピョウと同種とみなされる
2006年遺伝子研究で別種と判明
2008年IUCN「危急(VU)」に分類
2011年独立種として正式に分類
2015年サバ州で初の科学的個体数調査実施
2020年個体数再評価、依然「絶滅危惧種」

IUCNレッドリストでは、スンダウンピョウは「VU(Vulnerable=危急)」に分類されています。

これは「野生での絶滅リスクが高い」ことを意味します。

特に憂慮すべきは、個体数が継続的に減少していることです。

1990年代以降、特にスマトラ島での森林減少が加速し、それに伴いスンダウンピョウの生息地と個体数も急減しています。

サバ州とスマトラ島の保全状況比較

最新の研究では、ボルネオ島では保護区内の個体群は比較的安定していますが、保護されていない地域では急速に減少しています。

一方、スマトラ島では保護区内でさえも密猟や違法伐採の影響で個体数が減少しており、状況はより深刻です。

特にアチェ州北部の保護区では、2010年から2018年の間に個体数が約35%減少したという衝撃的な結果が報告されています。

驚異の身体的特徴

写真:Schalk Lubbe「Neofelis diardi photo」出典:Wikimedia Commonsライセンス:CC BY-SA 2.0

最大約5cmの犬歯

スンダウンピョウの最も特筆すべき特徴は、そのネコ科最大級長い犬歯(牙)です。

上顎の犬歯は最大5cmと言われており、体サイズ比では現存する全てのネコ科動物中最大です!

驚異的な歯の特徴

  • 上顎犬歯が体サイズ比でネコ科最大
  • 下顎も発達し特殊な形状の臼歯を持つ
  • 口を90度以上開く(一般的なネコ科は約65度)
  • 強力な咬合力と特殊な捕食テクニック

そして、この長い牙と強力な顎を使い、自分よりもずっと大きな獲物の首の後ろに致命的な咬傷を与えることができます。

ワシントン大学の解剖学的研究

解剖学的研究によると、スンダウンピョウの頭蓋骨と顎の筋肉構造は、他のネコ科動物とは明らかに異なり、この特殊な捕食方法に適応しています。

研究チームは、スンダウンピョウの頭蓋骨を3Dスキャンし、咬合力と顎の開閉メカニズムを詳細に分析しました。

その結果、彼らの顎関節は他のネコ科動物よりも広範囲に動くよう特殊化されていることがわかりました。

これは約600万年前に分岐した独自の進化の結果であり、スンダ列島の森林環境への完璧な適応を示しています。

樹上行動に優れる

スンダウンピョウは優れた木登り能力を持つネコ科動物の一つです。

その驚異的な能力は、特殊な解剖学的特徴によって支えられています。

木登り適応の特徴

  • 180度回転する足首(普通のネコは90〜100度)
  • 短く強力な脚大きな前足
  • 鋭く丈夫な爪(完全に引っ込められる)
  • 異常に長い尾(体長の約90%)
  • 低重心の筋肉質な体型

特に注目すべきは足首の特殊な構造です。

スンダウンピョウは後ろ足の足首を完全に180度回転させることができ、木を頭から降りることができます。

また、体長とほぼ同じ長さの尾は、ジャンプや方向転換時のバランス維持に不可欠です。

雲のような斑点模様

スンダウンピョウの名前の由来となった雲のような斑点模様は、単なる美しさだけでなく、熱帯雨林のキャノピーでの完璧な迷彩として機能します。

雲模様の特徴と機能

  • 大きな雲状の斑点不規則な二重輪郭
  • 森の光と影のパターンに酷似する配色
  • 樹上での効果的な迷彩として機能
  • 亜種によって微妙なパターンの違い

この模様は、木々の間を通り抜ける太陽光と葉の影が作る複雑なパターンに驚くほど似ています。

樹上で静止しているスンダウンピョウは、その斑点模様により周囲の環境に完璧に溶け込みます。

ロンドン動物学会の迷彩効果実験

研究者たちによる実験では、熱帯雨林の光と影の中での迷彩効果は驚くほど高いことがわかりました。

経験豊富な現地ガイドでさえスンダウンピョウの姿を5メートル以内の距離でも見つけるのに平均7分以上かかったのです。

この実験では、野生のスンダウンピョウの写真と、同じ背景にコンピューター処理で配置した他のネコ科動物の画像を比較し、被験者が動物を見つけるまでの時間を測定しました。

スンダウンピョウは全てのケースで最も発見が困難でした。特に斑点と斑点の間の色が周囲の樹皮や葉の色と非常によく一致していることが効果的な迷彩の鍵でした。

さらに興味深いことに、ボルネオ亜種とスマトラ亜種では斑点のパターンが微妙に異なります

これはそれぞれの島の森林の光条件や樹木の種類の違いに適応した結果と考えられています。

生態と行動

薄明薄暮性の行動パターン

スンダウンピョウは主に「薄明薄暮性」で、日の出前と日没後の時間帯に最も活発に活動します。

活動パターンの特徴

  • 夜明け前と日没後に最も活発
  • 昼間は樹上で休息することが多い
  • 月明かりの夜には夜間活動も増加
  • 雨季と乾季で活動パターンが変化

最新のカメラトラップ研究によると、スンダウンピョウの活動ピークは18:00〜20:00と4:00〜6:00の時間帯です。

これは主な獲物である樹上性の生物(サルやリス類)の活動パターンと一致しています。

また、雨季と乾季で活動パターンが変化することも興味深い特徴です。

雨季にはより昼間の活動が増加し、乾季には夜間活動が増える傾向があります。

ボルネオでの追跡調査結果

ボルネオでGPS首輪を装着した個体の追跡調査によると、一日あたりの移動距離は平均で約1.5〜2.5km。

しかし狩りに失敗した日や発情期のオスなどは、一晩で最大8kmも移動することがあります。

この行動パターンは、熱帯雨林の高温多湿な環境での効率的なエネルギー消費と、獲物の活動ピークに合わせた結果だと考えられています。

樹上での狩り

スンダウンピョウは樹上での狩りを得意とする特殊なネコ科動物です。

その狩猟戦略は他のネコ科動物とは大きく異なります。

狩猟の特徴

  • 主に樹上で獲物を待ち伏せ
  • 頭からの急降下樹から樹への跳躍
  • 長い犬歯による首筋への正確な咬傷
  • 獲物を高い樹上の安全な場所に運ぶ能力

スンダウンピョウの主な狩猟戦略は「待ち伏せ」です。

彼らは木の高い枝の上に隠れて動かず、下を通る獲物が通り過ぎるのを待ちます。

適切なタイミングで、驚くべき正確さで飛び降り、長い犬歯で獲物の首または首の後ろに致命的な咬傷を与えます。

サバ州での捕食行動研究

また、特筆すべきは彼らが自分より大きな獲物(例えば30kgのサンバー鹿の子ども)を木の上に引き上げる能力を持っていることです。

これにより、彼らは大型捕食者や腐肉食動物からの獲物の強奪を避けることができます。

サバ州での研究では、スンダウンピョウが樹上で捕獲した獲物を最大で3日間保管し、少しずつ食べる行動が観察されています。

研究チームは樹上に残された獲物の痕跡を調査し、DNAと噛み跡の分析から、スンダウンピョウが獲物を木に隠す独特の方法を持つことを確認しました。

平均して地上10〜15メートルの高さに獲物を保管し、時には樹洞や密生した葉の間に隠すこともあります。

これは貴重な食料を確保し、狩りにかかるエネルギーを節約するための効率的な戦略です。

スンダウンピョウの食性

スンダウンピョウは様々な獲物を捕食する多様な食性を持っていると考えられています。

主な獲物

  • サル類(テングザル、カニクイザル、テナガザルなど)
  • リス類(オオスカンクオリスなど)
  • ツパイ(樹上性の小型哺乳類)
  • オオムササビなどの樹上性げっ歯類
  • 樹上性の鳥類(サイチョウなど)
  • 地上性の小型偶蹄類(マメジカなど)

樹上性の獲物の比率が高いと推定されますが、食性を詳しく定量的に示した研究はまだ少なく、細かい割合などは謎の部分が多く残っています。

広大な縄張り

スンダウンピョウは基本的に単独で生活し、広大な縄張りを持ちます。

行動圏と社会構造

  • オスの行動圏:30〜50平方km(最大170平方km)
  • メスの行動圏:15〜30平方km
  • オスの行動圏は複数のメスの行動圏と重複
  • マーキング:尿、爪痕、糞による縄張り表示
  • 個体間の接触は主に繁殖期のみ

オスとメスが出会うのは主に繁殖期だけで、それ以外は互いに独立した生活を送ります。

オックスフォード大学とサバ野生生物局の共同研究

GPS首輪を使った最新の研究によると、スンダウンピョウの行動圏は森林の質に大きく依存しています。

原生林では比較的小さな行動圏で十分な資源を確保できますが、劣化した森林では3倍以上の面積が必要になることもあります。

この研究では、サバ州のデラマコット森林保護区とタビン野生生物保護区で10頭のスンダウンピョウにGPS首輪を装着し、2年間にわたって追跡調査を実施しました。

収集されたデータを分析した結果、持続可能な伐採が行われている森林では、オスの行動圏が平均42平方kmだったのに対し、過度の伐採で劣化した森林では平均132平方kmに拡大していたことが判明しました。

また、興味深いことに彼らのテリトリーは完全に排他的ではなく、特に豊富な食物資源がある地域では部分的に重複することがあります。

しかし、直接的な接触は基本的に避け、時間差で同じ地域を利用することが多いようです。

スンダウンピョウの繁殖と子育て

スンダウンピョウの繁殖と子育ては、その生態の中でも特に謎に包まれた部分です。

しかし、近年の研究で少しずつベールが剥がれてきました。

繁殖と子育ての特徴

  • 繁殖時期:年間を通じて繁殖可能(明確な季節性なし)
  • 妊娠期間:約85〜93日
  • 一度の出産数:1〜3頭(平均2頭)
  • 出産間隔:約18〜24か月
  • 子の独立:約10〜14か月齢
  • 子育ては完全にメスの責任

メスは通常2〜3歳で性成熟に達し、その後約2年に一度の頻度で出産します。

出産場所は大きな樹洞や岩の隙間、密生した下生えの中など、捕食者から守られた安全な場所が選ばれます。

特筆すべきは、子どもの成長が比較的遅いことです。

若いスンダウンピョウは約3か月齢から母親と共に狩りを学び始めますが、完全に独立するまでに10〜14か月かかります。

これは熱帯雨林の複雑な樹上環境での狩りに必要な高度なスキルを習得するのに長い時間が必要なためと考えられています。

サラワク州の親子観察事例

サラワク州での稀な観察例では、母親が子どもに対して様々な獲物の捕獲方法を「教える」行動が記録されています。

研究チームがカメラトラップを使って記録した映像には、母親が子どもに実演するかのように、わざとゆっくりと狩りの手順を見せる様子が捉えられていました。まるで学校の授業のようですね!

この行動は彼らの知能の高さと、学習による行動獲得の重要性を示唆しています。

ネコ科の中でも特に「教育熱心」な親かもしれません。

生態系における役割

www.photosbypaulo.com – 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=4892859による

スンダウンピョウは、ボルネオ島・スマトラ島の熱帯雨林における「中型の頂点捕食者」です。

同じ森に暮らすサルやリス、小型シカなど多様な動物たちと複雑に関わりながら、森林生態系のバランスを保つ重要な役割を担っています。

ここでは、

  • どの食物連鎖の位置にいるのか
  • どんな影響を周囲の動物や森に与えているのか
  • なぜスンダウンピョウを守ることが「森全体を守る」ことにつながるのか

を整理して見ていきましょう。

中型頂点捕食者としての位置づけ

スンダウンピョウは、島嶼部の熱帯雨林において、以下のような位置づけを持つ捕食者です。

  • ボルネオ島:トラなどの大型ネコ科がいないため、陸上哺乳類の中では最上位クラスの捕食者
  • スマトラ島:スマトラトラなどの大型捕食者と生息域を分けながら、主に中型〜小型哺乳類を中心に捕食する中型捕食者

この位置づけにより、スンダウンピョウは次のような機能を果たしています。

スンダウンピョウの役割

  • サル・リス・ツパイなどの樹上性哺乳類の個体数の調整
  • 小型シカやマメジカなど草食動物の増えすぎを抑える役割
  • 病気や弱った個体を優先的に捕食することで、獲物集団の健康状態の維持

目立たないけれど、いなくなると困るポジション」が、まさにスンダウンピョウの立ち位置です。

森林動物の行動パターンへの影響

スンダウンピョウがいる森では、獲物となる動物たちの行動も大きく変わります。

たとえば、

  • サルの群れが特定の樹冠ルートを避ける
  • リスやツパイが開けた枝や地上に長く留まらない
  • 小型シカが森の縁や倒木周辺を警戒しながら利用する

といった「捕食者を意識した行動」が見られるのです。

このような「捕食者がいる前提での振る舞い」は、

  • ある場所だけが過度に食べ尽くされることを防ぐ
  • 一部の植物が極端に食べられすぎるのを抑える

といった形で、植物側の多様性維持にもつながっていきます。

スンダウンピョウがいなくなった森では、草食動物や中型哺乳類が特定の場所に集中し、下層植生(低い木や若木)が食べ尽くされてしまうリスクが高まると考えられています。

他の肉食動物とのすみ分け

ボルネオ島・スマトラ島には、スンダウンピョウ以外にも肉食性の動物が暮らしています。

  • スマトラトラ(スマトラ島のみ)
  • マレーグマ
  • マレーヤマアラシを狙う小型ネコ科(ベンガルヤマネコなど)
  • オオトカゲ(ミズオオトカゲなど)
  • 大型ヘビ類

こうした捕食者たちと競合しすぎないように、スンダウンピョウは

  • 樹上性の獲物を多く利用する
  • 薄明薄暮(朝夕〜夜明け前)を中心とした活動パターン
  • 密な森林内部を好む傾向

などを通じて、獲物の種類・活動時間・利用する空間をうまく“ずらし”ています。

この「すみ分け」があるおかげで、多様な捕食者が同じ森で共存できているのです。

指標種・アンブレラ種としての重要性

スンダウンピョウは、保全の世界ではしばしば指標種(インジケーター・スピーシーズ)アンブレラ種(傘種)として扱われます。

指標種としての側面

スンダウンピョウが安定して生息している=以下の条件が揃っているサインになります。

  • 大型の樹木が残っている
  • 樹上性哺乳類や小型シカなどの獲物が十分いる
  • 森がある程度つながっている

アンブレラ種としての側面

スンダウンピョウが生きていける環境(広い森林・途切れないキャノピー・静かな環境)を守ろうとすると、その「傘」の下にいる様々な動植物も一緒に守られるという構図になります。

このような種を「アンブレラ種」と呼びます。

具体的には、スンダウンピョウを守ることで以下のような動植物を守ることにつながるのです。

  • サル類やリス類
  • マメジカやマレーセンザンコウ
  • 多種多様な鳥類・爬虫類・昆虫類
  • 森林に依存する人々の暮らし

つまり、

スンダウンピョウを守ることは、ボルネオ・スマトラの森そのものを守ることに直結している

と言っても過言ではありません。

人との共存という視点からの役割

一見、人間の生活から遠く離れた野生動物のように見えるスンダウンピョウですが、その存在は私たちにも間接的に影響しています。

  • 森林の健全性が保たれる →
    土壌の流出や洪水リスクの軽減、沿岸のマングローブやサンゴ礁の保全にもつながる
  • 多様な野生動物が暮らせる森 →
    エコツーリズム資源として地域社会の収入源になる可能性
  • 森林生態系の研究対象 →
    熱帯雨林の機能や気候変動への適応を学ぶ「生きた教科書」

スンダウンピョウは、単なる「珍しいネコ」ではなく、島の熱帯雨林の健全さを映し出す存在、そして、森と人間社会をつなぐ重要な「バロメーター」としての役割を担っているのです。

絶滅の危機と直面する脅威

先ほど触れたように、スンダウンピョウの成熟個体数は世界でおよそ4,500頭と推定されており、IUCNレッドリストでは「危急(Vulnerable=VU)」に分類されています。

ここからさらに数が減ってしまうかどうかは、森をどこまで守れるかと、人間の活動とうまく折り合いをつけられるかにかかっています。

この章では、スンダウンピョウが直面している主な脅威を整理していきます。

生息地の減少と森林破壊

スンダウンピョウにとって、最大の脅威は森林の喪失と劣化です。

  • 商業伐採(丸太・木材)
  • パーム油プランテーションへの転換
  • 伐採道路や大規模インフラ整備

などによって、ボルネオ島・スマトラ島の熱帯雨林は急速に失われてきました。

IUCNの評価では、2000〜2010年の間に、スンダウンピョウが利用できる森林(面積当たりの実際の「生息可能面積」=AOO)が約33%も減少したと推定されています。

主な原因は、やはり森林の伐採とパーム油農園への転換です。

森の半分以上が失われている!?

より広い視点では、ボルネオ島の森林の50%以上スマトラ島の森林の約3分の2がすでに失われている、という推計もあります。

スンダウンピョウは「森に依存するネコ」であり、油ヤシ(パーム油)プランテーションのような単一作物の農園はほとんど利用できないことが分かっています。

その結果、彼らにとって“条件の良い場所”が急速に削られ、住める森が島の中でどんどん押し込められているのが現状です。

さらに、以下のような巨大プロジェクトが、残された森を細かく分断する要因にもなっています。

  • パン・ボルネオ・ハイウェイ
  • トランス・スマトラ幹線道路
  • ボルネオ島で計画されている新首都(ヌサンタラ)周辺開発

(参考:Palm Oil Detectives)

森林の分断と遺伝的なリスク

森が「まるごと減る」だけでなく、バラバラに分断されていくことも深刻です。

カメラトラップや地理情報(GIS)を用いた解析では、

  • 2000〜2010年の森林減少に伴い、スンダウンピョウの生息可能エリアの“つながり”が大きく低下している
  • 2010〜2020年のシミュレーションでは、個体が行き来できる連続した景観の割合が60%以上減少する可能性が指摘されている

といった結果が示されています。

森が小さなパッチに分断されると、以下のように「長期的な絶滅リスク」が高まっていきます。

  • 各パッチに生息できる個体数が少なくなる
  • パッチ間の移動が難しくなり、遺伝子の交流(遺伝子流動)が減る
  • その結果、近親交配や遺伝的多様性の低下が起こりやすくなる

最近の研究では、マレーシア・サバ州で森林の健全性が低下するとスンダウンピョウの数が減り、代わりに小型のネコ(スンダヤマネコ)が増えてしまう“メソ捕食者リリース”という現象が起きている可能性も示されています。(参考:PMC)

これは単にスンダウンピョウだけの問題ではありません。

森の鳥類(キジ類やヤイロチョウなど)の減少、種子散布や昆虫制御など、生態系サービスの変化にもつながる可能性があり、森全体の仕組みが変わってしまう危険信号といえます。

密猟・罠・獲物の減少

さらには、スンダウンピョウは、直接・間接の両方で狩猟圧(ハンティングプレッシャー)の影響を受けています。

直接的な捕獲

  • 美しい毛皮
  • 犬歯や骨、その他の部位(装飾品・土産品・民間薬的利用)

を目的とした違法な狩猟や取引が依然として問題になっています。

IUCNの評価でも、商業伐採・油ヤシ農園化による森林損失とともに、増加する密猟が主要な脅威として挙げられています。

また、東南アジアの森では、シカ類・イノシシの仲間・小型哺乳類を狙ったワイヤースネア(くくり罠)が大量に仕掛けられており、スンダウンピョウが「意図せず巻き込まれる」ケースも少なくありません。

獲物の減少という間接的な影響

同じくIUCNや保全研究では、

  • 人間による狩猟(食用・商業用)によって、シカやイノシシなどの獲物が減少
  • その結果、スンダウンピョウが食べる獲物が不足する

という「間接的な飢えのリスク」も指摘されています。

とくにスマトラでは、森林の分断あ密猟圧の高さが相まって、ボルネオ以上に生息環境が厳しい可能性があることも研究から示されています。(参考:サイエンスダイレクト)

人間との軋轢と病気のリスク

スンダウンピョウは基本的に人を避ける性質が強いと考えられていますが、森が縮小し人里に近づかざるをえない状況になると、次のような問題も起こりえます。

  • 家畜(ヤギ・鶏など)が襲われた際の報復としての殺処分
  • 森の縁での罠や毒餌による巻き添え死亡

さらに、IUCNの報告では、森林の分断が進み、人とペット(野犬・野良猫など)が入り込みやすくなるとイヌパルボウイルスやジステンパーなどの病原体に曝露されるリスクが高まる可能性も指摘されています。

こうした感染症は、一見目に見えないものの、小さな個体群にとっては壊滅的な打撃になりかねません。

気候変動と森林火災の影響

スンダウンピョウに対する気候変動の直接の影響は、まだ十分には解明されていません。

ただし、ボルネオ・スマトラでは

  • エルニーニョなどに伴う異常乾燥
  • それに続く大規模な森林火災
  • 乾燥と人為的火入れによる泥炭湿地林の焼失

が、すでにオランウータンなど多くの森の生き物に深刻な影響を与えていることが分かっています。(参考:オランウータン財団国際)

スンダウンピョウも同じ森に依存しているため、火災や森林構造の変化といった形で、気候変動と人為的な火災の“合わせ技”の被害を受ける可能性が高いと考えられます。

これから数十年が生き残りの分かれ目

まとめると、スンダウンピョウが直面している主な脅威は、

  • 森林の減少と分断(とくに低地原生林の喪失)
  • パーム油・伐採・インフラによる生息地の細切れ化
  • 密猟・罠・獲物の減少
  • 人との軋轢やペット由来の病原体
  • 気候変動と火災の増加

といった要素が複合的に重なっていることです。

研究者たちは、今後以下のような対策が急務だと訴えています。(参考:oryxthejournal.org)

  • ボルネオ・スマトラ全域でのより精密な個体数調査
  • 保護区どうしをつなぐ森林コリドー(回廊)の確保
  • 罠や密猟の監視強化

裏を返せば、

いま私たちが森とスンダウンピョウを守るために動けるかどうかが、この種が数十年後もボルネオとスマトラの森で生き続けられるかどうかを左右する

ということでもあります。

豆知識💡インドネシア記念切手に描かれたスンダウンピョウ

2013年、インドネシアとメキシコは「国交樹立60周年」を記念して共同記念切手を発行しました。

両国で同じデザインの切手が発行される「ジョイント・イシュー(共同発行)」で、そのテーマはそれぞれの国を象徴する野生動物です。

メキシコ側はジャガー、インドネシア側はボルネオ島固有亜種であるボルネオ・スンダウンピョウが描かれました。(参照:John Chan Photography

画像:Stamp of Indonesia – Clouded Leopard Neofelis diardi borneensis
出典:Wikimedia Commons(Public domain)

スンダウンピョウが選ばれた背景には、ボルネオ島の熱帯雨林が「世界有数の生物多様性ホットスポット」であり、その頂点捕食者であるスンダウンピョウが森の豊かさと脆さの両方を象徴する存在だという事情があります。

IUCNレッドリストでは「危急(VU)」に分類され、保全が急がれる種であることから、インドネシア側の“顔”として取り上げることで、同国の森林と野生生物の保護の重要性を国内外にアピールする狙いもあったと考えられます。

この切手は、スンダウンピョウが単なる「珍しいネコ」ではなく、ボルネオ島の森全体を代表するシンボルとして国際的に認知されていることを示す一例です。

切手コレクターの世界でも人気が高く、小さな紙片の中に「島の森の幻影」と呼ばれるこのネコの存在感と、熱帯雨林保全のメッセージがぎゅっと詰め込まれています。


次は、この危機に対して実際にどのような保全・保護の取り組みが行われているのか、「保全・保護活動の現在」のパートで見ていきましょう。

保全・保護活動の現在

国際的な保護指定と法的枠組み

スンダウンピョウは、国際的にも国内法レベルでもかなり強く守られているネコ科です。

  • IUCNレッドリスト

    保全状況は「VU(Vulnerable=危急)」。有効な成熟個体数は1万頭未満、しかも減少傾向にあると評価されています。
  • CITES(ワシントン条約)

    本種は、1975年以降ずっと附属書I(国際商業取引ほぼ全面禁止)に掲載されています。
  • 各国での法的保護
    • インドネシア(スマトラ・カリマンタン)、
    • マレーシア(サバ州・サラワク州)、
    • ブルネイ
      では、いずれも完全保護種として指定されており、捕獲・殺傷・取引が禁止されています。

とはいえ、インドネシアでは2011〜2019年の記録だけで、スンダウンピョウとジャワヒョウを合わせた押収事例が41件(推定83頭分)にのぼるなど、密猟と違法取引は依然として重大な問題です。

生息地保全と保護区ネットワーク

スンダウンピョウは、ボルネオ島とスマトラ島の多くの保護区(国立公園や野生生物保護区など)に生息しています。

特にスマトラ山脈沿いとボルネオ各地の森林保護区は、本種の主要な拠点です。

しかし、1つの保護区だけでは、長期的に維持できるほど十分大きな個体群を支えられないと考えられています。そのため、現在の保全戦略では次の点が重視されています。(参考:IUCN CatSG)

  • 保護区同士をつなぐ森林コリドー(生態学的回廊)の確保
  • 伐採地や二次林を含めた「景観レベルの保全計画
  • オイルパーム農園などの中でも可能な限り森林パッチ・河畔林を残す

サバ州では、国際ワークショップを経てまとめられた「スンダウンピョウ保全アクションプラン(2019–2028)」が策定されており、以下のように具体的な行動指針が示されています。

  • 重点保護エリアの設定
  • 森林コリドーの維持・再生
  • 伐採地での「野生生物に配慮した森林管理」

一方で、2024年の解析では、ボルネオ・スマトラに計画されている大型インフラ(幹線道路・産業回廊など)が、本種のコア生息地と回廊の連結性を大きく損なう恐れがあることも指摘されています。

生息地ネットワークをどう守るかが今後の大きな争点と言えるでしょう。

研究・モニタリングによる支援

スンダウンピョウは「森の幽霊」と言われるほど姿を見せないため、科学的なデータを集めること自体が保全の第一歩になっています。

ここでは研究・モニタリングの一部をご紹介します。

カメラトラップ調査と生息密度の推定

サバ州などでは、数万トラップナイト規模のカメラトラップ調査がおこなわれ、生息密度は0.8〜2.4頭/100km² 程度と推定されています。

こうしたデータは、「どの地域で特に希少か」「どこを優先的に守るべきか」を判断する基礎情報として使われています。

首輪付け調査と遺伝解析

オックスフォード大学のWildCRUが中心となって進めるボルネオ食肉目プログラム(Bornean Carnivore Programme)では、サバ州でスンダウンピョウにGPS首輪を装着し、行動圏や回廊利用パターンを詳細に解析しています。

2014年以降、野生個体のゲノム解析も進められており、どの地域間で遺伝的なつながりが保たれているか、どの回廊が遺伝子流動にとって重要かを明らかにし、将来の土地利用計画に反映させる試みが行われています。

行動圏とコリドーを考慮した空間計画

ボルネオ全島・スマトラの大規模モデルでは、スンダウンピョウの利用しやすさ(移動抵抗)をもとに「コア生息地」と「重要コリドー」を地図化し、今後の森林減少シナリオやインフラ整備が与える影響が評価されています。

その結果、「現在の保護区ネットワークだけでは不十分で、低地林や回廊の追加保全が必須」という結論が繰り返し示されています。

コミュニティ・NGO・企業が連携した取り組み

さらには、地域コミュニティや企業、国際NGOとの連携した取り組みが進められています。

コミュニティと環境教育

「Bornean Wild Cats & Clouded Leopard Project」では、タビン野生生物保護区周辺の村を対象に、アンケート調査(野生ネコ類への認識・狩猟状況の把握)や、学校や地域での環境教育を組み合わせた活動が行われました。

地元住民の意識向上や、スナアニマル用の罠がスンダウンピョウを傷つけてしまうリスクを共有することで、「知らないうちに絶滅危惧種を捕まない」環境づくりが進められています。(参考:IUCN CatSG)

オイルパーム農園でのコリドーづくり

NGO「Hutan」やWWFなどは、オイルパーム農園を含む景観の中で、河畔林の保全・森林パッチ間をつなぐエコロジカル・コリドーの設計に取り組んでいます。

また、ポーランドのDodo基金では、ボルネオでのスンダウンピョウ保全プログラムを支援し、農園内に設置したカメラトラップから得られたデータをもとに、動物が実際に利用している通り道に沿ったコリドー整備の重要性を示しています。

こうした取り組みにより、「農園=完全なアウト」ではなく、「農園の中にも、野生動物が移動できる帯を残す」という発想が徐々に広がりつつあります。

今後の課題と保全の方向性

ここまで見てきたように、スンダウンピョウ保全は少しずつ前進していますが、まだ課題だらけです。

特に重要とされているのは以下のような問題です。

  • 違法取引と密猟の抑止
    • 法律は整っているものの、実際には押収事例が継続しており、監視・摘発の強化が求められています。(さんsこう:ResearchGate)
  • 森林コリドーの確保とインフラ計画との両立
    • これからの道路・産業開発を、スンダウンピョウのコア生息地と回廊マップを踏まえて設計できるかどうかが、長期的な存続に直結します。
  • スマトラでの情報不足の解消
    • ボルネオに比べると、スマトラの個体群に関するデータはまだ少なく、優先保全エリアの特定や、トラ・ゾウなど他の大型動物との「まとめて守る」戦略が今後の鍵になります。

次のセクション「あなたにもできるスンダウンピョウの保全・保護活動」では、こうした大きな枠組みの中で、一般の私たちが日常生活の中で関わっていけるポイントを分かりやすく整理していきます。

あなたにもできるスンダウンピョウの保全・保護活動

「ボルネオとスマトラの森に住むネコ」と聞くと、すごく遠い存在に感じますよね。

でも、お菓子やシャンプー、洗剤など、私たちの日常の買い物が、実はスンダウンピョウの森とつながっています。

ここでは、専門家じゃなくても、今日からできる行動を整理してみます。

1. 買い物でできること:パーム油との付き合い方

ボルネオ・スマトラの森が失われる最大の原因のひとつが、パーム油(油ヤシ)プランテーションへの転換です。

WWFジャパンも、ボルネオウンピョウ(スンダウンピョウ)がパーム油や天然ゴムの農園開発で生息域を奪われていることを指摘しています。

とはいえ、「パーム油=すべて悪」と切り捨ててしまうと、現地の雇用や生活にも影響します。

できるアクション例

  • RSPO認証付き製品を選ぶ
    「RSPO」「持続可能なパーム油」などと表示された製品は、森林保全や人権に配慮したパーム油を使うための国際基準に沿って作られています。完璧ではないけれど、「何も基準のないパーム油」よりはずっとマシな選択肢です。
  • 買い過ぎ・ムダ買いを減らす
    お菓子や加工食品、洗剤・化粧品など、パーム油を含む商品はとても多いのです。「本当に必要な分だけ買う」ことも、遠回りだけど立派な生息地保全です。
  • 企業の方針をチェックする
    WWFは、企業に対して「自社のパーム油を森林破壊と切り離すこと」を求めています。
    • 自分がよく使うメーカーが、パーム油についてどんな方針を出しているか調べてみる
    • サステナビリティレポートや公式サイトで、「RSPO」「ノー・ディフォレストレーション」といったキーワードが出ているかチェックしてみる

今の国際的な流れは、

いきなり“ゼロ”にするのではなく、森林破壊を伴わない「持続可能なパーム油」に切り替えていく

という方向です。

“ちょっとだけマシな選択を繰り返す人”が増えることが、スンダウンピョウの森を守る力になります。

2. 寄付・会員として保全プロジェクトを支える

以下のような、現地で実際にスンダウンピョウを守っている団体に寄付する方法もあります。

  • 国際NGO(WWF、Panthera など)
  • 大学・研究機関(オックスフォード大学の Bornean Carnivore Programme など)
  • ボルネオ・スマトラのローカルNGOや保護区スタッフ

こんな支援の形があります

  • 信頼できる団体への寄付・マンスリーサポート
    • 例:野生ネコ科全体の保全を行う団体(WWF、Panthera など)
    • ボルネオの食肉目を専門に研究する Bornean Carnivore Programme などは、スンダウンピョウの行動圏や回廊のデータを集めて保全計画に活かしています。
  • クラウドファンディングやプロジェクト単位の支援
    • 「カメラトラップを◯台追加したい」「森のパトロールを強化したい」など、具体的な目的付きのプロジェクトもあります。

「大きな額じゃないと意味がないのでは…?」と思いがちですが、実際には毎月の小さな支援が、長期の調査やパトロールを支える安定収入になっています。

3. 正しい情報を学び、周りにシェアする

スンダウンピョウのことを知っている人は、世界的にもまだ多くありません。

だからこそ、「知っている人が、広めていく」こと自体が保全活動の一部になります。(このネコ科図鑑もそのような目的で始めました。)

さらに、違法なペット販売や“飼ってみた系動画”の拡散には加担しないようにしたり、出所のあやしい「珍しいペット動画」「触れ合い動画」には慎重になるといった“広めない選択”も、とても大事です。

4. 旅行・エコツーリズムでの選び方を工夫する

もし将来ボルネオ島やスマトラ島に行く機会があれば、旅行の選び方がそのまま保全への支援になります。

ツアーや施設を選ぶポイント

  • 保護区や国立公園と連携しているツアーかどうか
    • 入園料やガイド料の一部が、保全やパトロールの資金になっているところを選ぶ
  • 野生動物に“触れる”“抱く”ことを売りにしていないか
    • 野生ネコ科を直接触らせる施設は、保全より商業目的の可能性が高く、現地NGOが問題視しているケースもあります。
  • 環境配慮を明示しているエコロッジやツアー会社を選ぶ

動物好きであれば「一度でいいから自分の目で好きな動物を見たい!」と思う気持ちはとてもよく分かります。

しかし“無理に見に行かない”ことも、立派な配慮であると意識することも保全活動の一歩と言えるでしょう。

5. まずは「知る」「好きになる」ところから

ここまで読んでくれた時点で、もうすでに

スンダウンピョウのことを「知らなかった人」から「知っている・気にかけている人」

に一歩進んでいます。

  • 写真集やドキュメンタリーを見てみる
  • 他のウンピョウ属(大陸ウンピョウ)との違いを調べてみる
  • 「今日はスンダウンピョウのことを1つ覚える日」にしてみる

こうした小さな「好き」が増えるほど、“守ろう”という意思を持つ人の輪も自然と広がっていくでしょう。

スンダウンピョウに関するQ&A

野生に生きるネコ科図鑑Q&A

Q1. スンダウンピョウとウンピョウの違いは何ですか?

A. どちらもウンピョウ属 Neofelis に属する近い仲間ですが、別種です。

  • タイリクウンピョウ:Neofelis nebulosa
  • スンダウンピョウ:Neofelis diardi(ボルネオ島・スマトラ島に固有)

主な違いは…

  • 分布:タイリクウンピョウはアジア大陸〜一部島嶼、スンダウンピョウはボルネオ島・スマトラ島のみ。
  • 模様:スンダウンピョウは雲模様がやや小さく、内側に黒い斑点が多い傾向。全体的に色も濃い。
  • 頭骨・歯:スンダウンピョウの方が犬歯が長く、頭骨形態も異なることが遺伝・形態学的研究で示されています。

2006年の遺伝子解析をきっかけに、2つは別種として正式に分けられました。

Q2. 日本の動物園でスンダウンピョウに会えますか?

A. 残念ながら、現時点で日本の動物園で飼育・展示されているのはタイリクウンピョウのみとされています。

スンダウンピョウ自体を飼育している施設は、ボルネオやスマトラ周辺国、ヨーロッパなど世界的にもごく少数に限られており、一般の来園者が実際に会えるチャンスはとても少ないのが現状です。

(この記事では、その「ほとんど会えない」スンダウンピョウの世界を、できるだけイメージしやすくお届けすることを目指しています。)

Q3. スンダウンピョウは人間にとって危険な動物ですか?

A. 野生では中型〜大型の哺乳類を狩る強力な捕食者ですが、人間を積極的に襲う例はほとんど報告されていません。

  • 彼らは非常におとなしく、人の気配を感じると先に身を隠す「臆病なハンター」です。
  • ボルネオやスマトラでも、人をターゲットにした攻撃例は極めて稀で、多くは罠や森林伐採の巻き込まれ事故で人間と関わります。

とはいえ、野生の大型ネコである以上、決して近づいたり触ろうとしたりしてはいけない存在であることは変わりません。

Q4. スンダウンピョウはどのくらい絶滅の危機にありますか?

A. IUCNレッドリストでは、スンダウンピョウは「危急(VU:Vulnerable)」に分類されています。

  • ボルネオ・スマトラ全体で、成熟個体は約4,500頭前後と推定されています。
  • 主な脅威は「熱帯雨林の伐採」「プランテーション開発」「密猟」「生息地の分断」など、人間活動に由来するものです。

今後も森林伐採が続けば、数十年単位で一気に絶滅リスクが高まると懸念されています。

Q5. スンダウンピョウをペットとして飼うことはできますか?

A. いいえ、絶対にできませんし、してはいけません。

  • スンダウンピョウは ワシントン条約(CITES)附属書I に掲載されており、国際取引は原則禁止です。
  • 生息国(インドネシア・マレーシアなど)でも法的に厳重に保護された野生動物であり、捕獲・飼育は違法です。

「かわいいから飼いたい」という気持ちが、実は密猟や違法取引を支えてしまうリスクがあります。

スンダウンピョウは、あくまで野生の森で生きるべき動物として、遠くから見守り・守る対象だと考えましょう。

Q6. スンダウンピョウがいなくなると、森にはどんな影響がありますか?

A. スンダウンピョウは、島の熱帯雨林における中型の頂点捕食者です。

もし彼らが消えてしまうと…

  • サルや小型シカなどの中型哺乳類が増えすぎる
  • 樹木の芽や若木が多く食べられ、森林構造が変化する
  • 結果として、森全体の生きものの多様性が低下する

といった「ドミノ倒し」のような影響が出る可能性が高いと考えられています。

スンダウンピョウを守ることは、
👉 ボルネオやスマトラの森そのものを守ること
👉 そして、そこで育まれる膨大な生きもののつながりを守ること

にも直結しているのです。

読者へのメッセージ

野生に生きるネコ科図鑑メッセージ

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

スンダウンピョウは、

  • 森の中でめったに姿を見せないこと
  • 島の熱帯雨林だけでひっそり暮らしていること

から、「島の森の幻影」とも呼ばれることがあります。

このひっそりと暮らしている彼らが、森林伐採やプランテーション開発・密猟・違法取引といった人間の活動に、今まさに追い詰められています。

この記事を読んでくださった皆さんには、「遠い国の知らない動物の話」で終わらせずに、何か一つでもアクションを起こしてみてほしいと願っています。

  • フェアトレードやRSPO認証など、環境配慮型の商品を選ぶ
  • 信頼できる団体の寄付や会員として保全活動を支える
  • スンダウンピョウやボルネオ・スマトラの森の現状を誰かに伝える

こうした小さな一歩の積み重ねが、現地の保護活動の大きな力になるのです。

「スンダウンピョウって、こんなにすごくて、こんなに守る価値があるんだ」と心のどこかに残してくれたら幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうました。

また別のネコ科の世界も、一覗きにいきましょう 🐾

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この記事を書いた人

野生に生きる「ネコ科図鑑」管理人です。トラ・マヌルネコに偏愛

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