身体のパーツを目的とした密猟が示す、見えにくい脅威
アフリカのライオンはこれまで、息地の分断、人との衝突、獲物の減少といった脅威にさらされてきた。
それに加えて今、身体の一部のパーツを狙った標的型の密猟が、見過ごせない新たな脅威として浮かび上がっている。
Pantheraが2026年3月9日に公開した記事では、最近の研究をもとに、ライオンの爪、歯、皮などを目的とした取引が拡大しつつあり、十分な対策が取られなければ、将来的に種そのものを揺るがしかねないと警鐘を鳴らしている。
この研究には、PantheraのCounter Wildlife Crime programやLion Species programのスタッフも参加した。
ライオンの身体のパーツをめぐる取引は、アフリカと東南アジアにおける文化的・宗教的・商業的需要に支えられており、しかも一部では毒を仕込んだ死骸でライオンを誘引する手法まで確認されているという。
この方法はライオンだけでなく、同じ死骸を利用するハゲワシなどの腐肉食動物にも大きな被害を及ぼしうる。
早期警戒が必要な理由
記事が伝えているのは、すでに危機が全面化してから対応するのでは遅い、ということだ。
野生動物取引のネットワークは、いったん供給ルートができると急速に広がりやすい。だからこそ、まだ「十分に理解されていない段階」で兆候を捉え、手を打つ必要があるとされる。
Pantheraが紹介した研究では、対策の優先分野として次の6点が挙げられている。
- 現地での保護とモニタリングの強化
- 地域コミュニティを保全の協力者として位置づけること
- 違法取引ネットワークの理解を深めること
- 情報主導型の取り締まりで trafficking route を妨害すること
- 法制度・司法体制の強化
- 文化的背景を踏まえた需要削減キャンペーン
ここで重要なのは、これは単なる「密猟対策」ではないという点だ。
ライオンの身体の一部の取引は、象牙、サイ角、センザンコウのうろこなど、ほかの違法取引とも接続しうる。一つの種だけを切り離して守るのではなく、野生動物犯罪全体の構造の中で捉える必要があるということでもある。
Pantheraはどう動いているのか
Pantheraは、こうした脅威に対して、研究と現場対応を組み合わせながら動いている。
カメラ調査による個体群変化の把握、空間モデリング、GPS首輪を用いた移動追跡などを通じて、ライオンがどこでどのようなリスクにさらされているのかを見極めているのだ。
また、政府機関や非政府組織と連携し、犯罪分析や情報共有を進めることで、既存・新規の脅威に対する優先順位づけや介入設計にもつなげている。
さらにPantheraは、地域の人々と協力しながら、密猟や違法取引の背景にある社会経済的要因にも向き合っている。
代替生計の支援、保全教育、人と野生動物の衝突緩和などを通じて、供給側と需要側の両方に働きかける姿勢が示されている。
ここでもやはり、単に「取り締まる」だけではなく、その地域で人がどう暮らしているかまで含めて考える保全の姿勢が見える。
本物を置き換える、というアプローチ
南アフリカの「Furs for Life」
記事の中で紹介されている事例の一つが、南アフリカのFurs for Lifeだ。

Pantheraは、Shembe Churchの儀礼衣装として15,000着以上の本物のヒョウ毛皮製品が使われていることを知り、教会指導者と協力して、高品質な人工毛皮製品「Heritage Furs」を開発した。これにより、本物の毛皮を使わずに文化的実践を継続できる道をつくったという。
Pantheraによると、このプログラムではすでに19,000着以上が提供され、儀式で使われる本物のヒョウ皮の使用は半減した。
さらにこの取り組みは、ザンビア、モザンビーク、マラウイにも広がり、ヒョウだけでなく、サーバルやライオンのたてがみ製品の代替にもつながっている。
ここで興味深いのは、文化を否定するのではなく、文化を尊重しながら野生動物への依存を減らす方向で解決を探っている点だ。
違法取引の背景にはしばしば、単純な金銭問題だけでは片づけられない価値観や慣習がある。だからこそ、こうした代替策は現実的な保全手法の一つとして重要なのだろう。
セネガルで進む、西アフリカライオン保全
もう一つの記事内で挙げられているのが、セネガルのニオコロ・コバ国立公園での取り組みだ。
Pantheraは政府当局と連携し、保護区管理や対密猟対策の強化を支援している。
この地域は、西アフリカライオンの残された4個体群のうちの1つを抱える極めて重要な場所であり、西アフリカで最大級のヒョウ個体群も残っている可能性があるとされる。
Pantheraとセネガル国立公園局(DPN)の連携によって、ここ数年でライオン数の増加と、獲物種の前向きな個体群傾向が確認されているという。
すべての地域で同じ成果がすぐに出るわけではないにせよ、保護区管理・対密猟・地域連携を重ねることで、回復の余地はあることを示す事例として受け取れる。
ネコ科図鑑管理人の見解

今回の記事で重要なのは、「ライオンが減っている」という一般論ではなく、まだ大きく可視化されていない脅威の初期兆候に光を当てている点だ。
ライオンの保全というと、生息地の減少や人との衝突がまず思い浮かぶ。もちろんそれらは今も大きな問題だ。
ただ、それに加えて身体パーツを狙う組織的な取引が広がれば、脅威の性質はさらに変わる。
しかも毒餌のような手法は、ライオンだけでなく、プライド全体や腐肉食動物まで巻き込みうるため、被害が局所的に見えても生態系全体への影響は小さくない。
もう一つ注目したいのは、Pantheraが示している対策が、単なる摘発強化にとどまっていないことだ。
現地保護、コミュニティ連携、流通網の理解、司法強化、需要削減。
つまりこれは、ライオンを守る話であると同時に、人間社会の側の構造をどう変えるかという話でもある。
早い段階で兆候を捉え、危機が当たり前になる前に手を打つ。
今回の発信は、その必要性を静かに、しかしはっきり伝える内容だった。


